染織文化講座 「小紋型を染める」小紋師 藍田正雄 〜その①〜 The lecture of Edokomon by Masao Aida

染織文化講座、今回の講義は、江戸小紋 小紋師の藍田正雄先生によるレクチャーでした。

こちらが藍田正雄さん。江戸小紋がお好きな方でしたらご存知の方も多いと思います。群馬県高崎市で作家活動をされていらっしゃいます。群馬県の指定重要文化財保持者です。

こうしてお会いすると、なんというかすごくすごく、フツーの可愛らしいおじさん(笑)←失礼。いえいえ、もう本当にチャーミングな方でした!顔をくしゃっとする笑顔がとても魅力的な先生でしたよ〜。お話を伺っていてとにかく感じたのは、江戸小紋作りへの愛情と情熱!

この日、先生が持ち込んで下さった作品。

ぱっと見ると無地のように見えるほど細かい柄が染め抜かれている、というのが江戸小紋の特徴ですが、寄ってみていきますとこのような柄が。
一見、鮫小紋かな、と思うのですがよく見ると縄のように編込まれている珍しい型ですね。このように、江戸小紋は、非常に繊細な型紙を用いて染めていく型染めのきものです。
藍田正雄先生は、昭和15年生まれ。お父様も染めの渡り職人という家に生まれ、小学6年生のときから染めの現場に立ち、お父様のお手伝いを見よう見まねでやられていたと言う筋金入りの職人。
中学生の頃には、既にかなり難しい型染めも手掛けていたそうです。16歳になると、品川の鮫洲にある染め工場に修行に出されます。既にある程度の技術を持っていた藍田先生は、新しい仕事場においても、難しいと言われる「縦もの」が染められる職人として頼りにされていたのだそうです。

※右側:糊でぼかしを入れた江戸小紋
万筋などの縞柄は、「縦もの」と呼ばれ、職人さんにとって非常に手間がかかるものなのだそうです。極万筋という言葉を聞いたことがあると思いますが、とにかく細い線が無数に走る美しい小紋です。
藍田先生が10代で仕事をしていた時代は、まだまだきものの染めの仕事がたくさんあった時代。鮫洲から浅草の工房へ移ると、浴衣やテトロン(ポリエステルの商標)を染める技法を学び、長襦袢や様々な染物を扱うようになります。
当時、職人であったお父様から、
「あれが出来てこれが出来ないという職人になるな」
といわれ、とにかく転々とした工房の先々で様々な技法を学び取るように、がむしゃらに修業時代を過ごされたそうです。
壁に缶吹きして塗料を吹き付ける様なアルバイトもし、あらゆる角度から染める技法を学ばれたというのは面白いエピソードでした。

※江戸小紋のマフラー
工房を転々とし、その先々で全く異なる技法を身につけていく。そこに行かなければ学べない技術が無数にある。これが伝統工芸の難しい所なんだそうです。どういうことかというと、技術は非常に属人的であり、その工房の親方によって門外不出にされているということ。つまり、その工房の親方に許された人間しかその技術を継承できない=非常に狭い範囲でしか技術継承がされないため、貴重な技術も絶えてしまいやすい、ということなのです。

※江戸小紋の袱紗
藍田先生は、こうした現状が伝統工芸を先細りにしている一つの原因でもある、とおっしゃり、技術はどんどん伝え教えていくもの、とご自身も四名のお弟子さんをとり、皆さんがそれぞれ既に活躍されています。
この日、アシスタントとしていらしていた藍田愛郎さんもその一人です。
つづく。
あこや