和更紗あそび展 田中敦子さん講演会へ〜その②〜 Atsuko Tanaka WaSarasa lecture

着物・呉服・和服

「きもの」を表現する言葉を、私達はたくさん持っています。
「呉服」という言い方もその一つ。「くれはとり」とも読めますが、中国の呉の国から伝わったというのが起源。「和服」は、時代が進み「洋服」という概念が取り入れられた以降登場した言葉。

熊谷コレクション「赤地草花唐子亀甲描分文様更紗」江戸後期 長崎
飾りの枠が何重にもなっています。枠ごとに型紙を分けて使い、この1枚で100回以上の
型送りをしていると思われます。

この様に、きものは、常に海外の目線から語られ、決して日本純血種ではないということなんですね。例えば、着物の下に着る「襦袢」。これは、袖の広い上着を表すアラビア語が語源のポルトガル語が由来です。

きものの歴史

きものの歴史を紐解けば、明治になるまでは、小袖と呼ばれる今のような着物の形や着方とは異なるスタイルでした。室町時代には、小袖に細帯姿の今で言う男性の着流しのような格好でした。

熊谷コレクション:「白地紅毛人唐人草花文様更紗」江戸後期 堺
和更紗を代表する文様。同じ型ですが、縦の裂ごとに色を替えています。この記事は広幅で
インドからの生地を使って日本で染めたもの。

カフタン型と言われる着物特有の右前も、そもそも左前だったところに中国から右前文化が入ってきて変化したそうです。こうやって、現在のきものの形に至るまで、大陸をはじめとした外国の影響を多いに受けて変化して来た衣服と言えます。

上記 拡大

■更紗が愛された三大理由

世界中の染織に影響を与えたという更紗。その人気の秘密はなんだったのでしょうか。田中さんは下記の3つの理由を挙げています。

  • パワフルな色使い = 古書から命の色であった鮮やかな赤
  • エキゾチックな模様 = 見たこともない異国の人物や動物
  • ハイスペックな新素材 = 木綿という新素材

更紗は、「旅する布」、なんて言われるように、大航海時代のインドは、ヨーロッパ向けには大柄のものを、日本向けには小柄のものをたくさん制作し輸出しました。南蛮、紅毛貿易でもたらされた更紗。当時、日本はいい商売相手だったようです。

熊谷コレクション:「藍地唐花文様更紗夜着」江戸後期 堺
仮縫い状態だが、綿を入れ「掻い巻き」として使用。

■インド更紗と和更紗の違い

~インド更紗~
古代インダス文明から媒染を行っていたことがわかっています。木綿はインド原産の新素材で、それに茜で染められた鮮やかな赤が世界を席巻しました。制作工程としては、下染めした木綿を茜で浸け染めすることによって赤がしっかり染まる特徴がありました。手描きで文様を描くためのカラムペンや、木版チャパイなどが道具としてはあげられます。

〜和更紗〜
インド更紗を見よう見まねで、、、当時、大変人気のあったインド更紗を日本で再現するために、インドから職人を連れてくるわけにはいかず、布しか見ていない日本人が自国にある技術で模造品を作ったというわけです。既に日本に根付いていた型染めの手法を用いて、染料は顔料であるベンガラや海外の染料で模様付けをしています。文様を染める主な技法が「藍染め」であった江戸時代に、インド更紗の模倣から始まり、江戸時代の中頃には、独自の型紙を用いて、丸刷毛で何版も重ねて多色染めを行いました。

熊谷コレクション:「白地唐花文様更紗」江戸後期 堺
エキゾチックな文様は和更紗本来のもので、インド更紗の異国情緒に憧れて考案。

江戸時代、日本は鎖国状態であった、と我々は学校の歴史の授業で習いました。田中さんのお話でとても興味深かったのは、実際の江戸時代は、そんな事はなく、日本には4つの口がありそこを基点に海外と交易を行っていたと言います。それが、長崎口、対馬口、薩摩口、松前口の4カ所。こうしたところから、常に諸外国の文化が日本には流入し、きものに影響をもたらしていたのですね。

熊谷コレクション:左から「白地唐花文様更紗」江戸時代後期 京
中央 「緑地花唐草文様更紗」文化文政 京
右 「白地小花入り変わり格子文様更紗」江戸後期 更紗

今回の講義で、現在我々が楽しんでいるきものは、決して日本古来のものではなく、当時の舶来文化と言う流行を取り入れ独自に進化していった衣服であり、常にその時代を映す鏡のようなものであったという事が理解出来ました。それと同時に、インド更紗という舶来品から和更紗と言う独自のテキスタイルを生み出し、自分たちの文化にしてしまう、という日本人のおおらかさ、そうした歴史自体を享受して私たちは今きものを楽しんでいるんだな、と感じました。

だからこそ、現代においても、もっときものは自由であるべきだし、変化することを前提に楽しむものだという事を改めて痛感しました。とても勉強になりました。田中さん、ありがとうございました!


あこや

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