秋の染織文化講座第2回目:江戸期の小紋についてby丸山伸彦氏(武蔵野大学)&長板中形/藍形染の松原伸生氏〜その②〜

長板中形/藍形染の松原伸生さんの講義です。

今回の「第61回日本伝統工芸展」で高松宮記念賞を受賞された直後とあって、タイムリーなレクチャーでした。松原さん、おめでとうございます!

今回、受賞された松原さんの作品。
長板中形着尺「漣文」(さざなみもん)

透明感のある浅葱地に浮き立つ精緻な円の連鎖。両面から型紙で防染糊を置き、藍の浸染によって表現された文様は、幾何学的でありながら、見事に水面(みなも)の表情を捉え、叙景詩的情趣を宿している。今日の区分では「長板中形」に属するが、用布は薄手の絹(夏大島)であり、意匠といい、技法といい、ここには紛う方なき江戸時代の小紋の姿が再現されている。まさに伝統工芸の真骨頂を示した秀作である。 (丸山伸彦:日本伝統工芸展のホームページより)

講義中の松原さん。

とってもまじめな方なのだなぁ、というのが伝わる講義でした。たくさん資料もご持参くださり充実の90分でした。

長板中形とは。。。
江戸時代からの染めの伝統技法で、長板と呼ばれる着尺一反の半分の長さのモミ一枚板を張板として使うところからこう呼ばれています。

大きくは下記の工程に分かれます。

1)地張り(じばり)
長板に白生地を貼るために引き糊を引いておく。これに毛バケで水を引き、丸く巻いた白生地を転がし長板の上にぴっちりと貼る。そして地張木で布面を押し付け固定します。

2)糊作り
糊は、生糊と糠かきの2種類があり、生糊は餅粉に石灰を混ぜて湯で練り、団子状にして練り上げて作る。糠かきはこれに小紋糠と石灰を加えて作る。型付け糊は生糊と糠かきを混ぜて作り、糊の強さは形の種類やその日の天候に合わせ調整する。

松原さんは、布のタイプによって水分量や塩加減をその日の天候なども考慮し細心の注意を払って調合し、糊を作るそうです。調合によって、糊の特性が大きく異なるそうで、細かい柄の時には、こう、などそうした知識が経験上重要なのだそうです。また、夏の薄い素材の場合は、炒り糠をふって糊を引くそうです。

3)型付け

型紙(伊勢型)を白生地の上に載せ、ヒノキのヘラで糊を彫目に埋めていき、その部分に染料が入らないように防染する。


※松原さんが持参されたヘラ

型紙一枚分の型付けが終わると、その型紙をはがして次々と送り継ぎながら型付けを繰り返す。

糊が乾いた後、生地を裏返し、再び板に張る。表糊には朱粉が入れてあり、生地を通して朱色の文様が見えるので、表の模様に合わせて型付けをする。

これは、今回受賞した作品と全く同じ型紙で型付けした状態もの。表が朱色、裏がクリーム色の糊になっているのがわかります。

長板中形はこのように型付けを片面だけでなく、両面にする点が他の型染めと異なる。表裏両面に糊を置く理由は、文様や地の白場を真っ白に染め残すためである。

それにしても、こまかーい!それに型紙をずれないように連続して型付けする=型継ぎは本当に大変そう!

型紙には、型をずらす時に柄を合わせる為に星(合わせ目)が彫ってあり、目印はあるが、1ミリメートルでも狂えば、後に行くに従って柄の乱れが大きくなってしまう。表裏の柄を合わせることは、更に高度な技術を必要とする。

これも松原さんが持ってきて下さった型紙ですが、型紙の右上部のところに印があるのが、星だそうです。

中形の一般的な型紙の大きさでは、一反で表裏合わせて約200回の型付けをするそう。より複雑な文様を作るために使用される二枚型では、その倍の400回のか型付けが必要になります。

4)豆入り(ごいれ)
型付けが終わった布は乾燥させた後、豆入れをする。豆入れとは、大豆の絞り汁に石灰を加えた液。藍がよく染まるための準備工程である。

5)藍染め
藍染めは通常いくつかの藍瓶をくぐらせて染め上げる。
※松原さんは専用の長方形のカメに浸けて効率的に染めを行うそうです。
藍瓶から引き上げた後、伸子(しんし=布を張るための竹に針がついた棒)にさしたまま布面を十分空気に晒し、水洗いをし、防染糊を落とし乾燥させる。
いずれも雨の日には出来ない工程で、手間ひまを掛けて染め上げられる。

まだまだ続きます!

 

あこや

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